生まれて初めての結婚式でのスピーチ・・・・・
俺は少々小言を言いたかったのだ・・・・・・兄さんの娘達に・・・
従兄弟のキミユキ兄さんの家は娘が3人に奥さんという
女性優位家族である・・・・だからどうしてもキミユキ兄さんの立場は弱くなる
魚屋さんだから声は大きいし威勢はいいが女性陣は決して負けてはいない
俺はそんなキミユキ兄さんの援護をしてやりたかったのだ・・・・
しかしながら結婚式のスピーチで娘らに対して
「お父さんのことをあの人とかいう言い方で呼ぶな!
ちゃんとお父さんと呼んでやれ!
疲れて板の間で寝ていても行き倒れの酔っ払いをみるような目で見るな!
ちゃんと毛布をかけてやれ!」とか言うわけにもいかないだろう・・・・
もちろん娘達はどの子も世間的にみれば本当にいい子たちなのだ
3人とも金のかからない県立高校へ通い
自分らの自動車免許もちゃんと自分らでバイトして貯めたお金で
取得した・・・・・本当にいい子たちなのだ・・・・
・・・・まッ  それでも・・・・・で、ある・・・・
口うるさい親戚のおじさん(俺)は気にいらないこともあるのだ・・・
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本日はお忙しいところをお越しいただいて、誠に・・・・
から始まる謝辞を一通りこなしてから
「今日は異例かとも思いますが、私は新婦の父について話をしたいと思います・・・・・」と切り出した・・・・・・
「新婦の父、キミユキ兄さんは、兄さんがお母さんのお腹の中にいるときに
父親がフィリピンで戦死しました・・・・いわゆる戦争孤児です
キミユキ兄さんは中学校を卒業すると同時に家業の魚屋を継ぐべく
丁稚奉公に出ます・・・・そしてつらく長い修業を終えて
20代の中ごろ、やっと独立しました・・・・結婚もしました・・
ところが・・・自分の家を持ち、自分の家族を持ち、自分の店を持ち
さあッこれから!という時に火事に遭います・・・・・・
全焼でした・・・・・火の手はとても早く先祖代々の位牌を持ち出すのが精一杯でした・・・・・
しかしながら、それからというもの・・・・まさしく裸一貫!
キミユキ兄さんは働いて働いて働きぬいて3人の娘を立派に育て上げました
ボクは近頃のキミユキ兄さんを見ていると涙が出そうになります!
身体は痩せ細り、指は折れ曲がり節くれだち、背中は丸くなって
それでも自分に出来るかぎりの仕事を黙々とこなす日々!
そこには頑固な男の壮絶な一生が刻み込まれています!!」
なんか自分でも選挙応援の演説みたいになっちゃったなあ〜
と思いながらも激高口調をいまさら止めるわけにもいかなくなってしまった
テーブル席の親戚のおばさん連中はハンカチを握り締めて泣いている・・・
娘達に親父を大事にしろと小言を言ってやるつもりだったけど
そんなことはどこかに飛んでいってしまった・・
「キミユキ兄さん!マサコ姉さん!今日は本当におめでとう!
本当にご苦労様でした!」
と叫んだら、万来の拍手が沸き起こった・・・・・・
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夜になってNに電話をして
「なかなか俺のスピーチは評判良かったよ」と言うと
「へえ〜〜」とつまらなさそうに応える
「お前ねえ、俺のスピーチがウケルとそんなに悔しいわけ?」
と問い詰めると「ごにょごにょ・・・」と応える
近くにおったら左耳の横で「わッ!!」
って叫んでやるんだが・・・・・・