高校時代しっかり落ちこぼれてしまった俺は早々に現役での合格をあきらめ
浪人生活を送るべく神戸山陽鉄道沿いの月見山という
滅茶苦茶辺鄙な駅の近くに下宿を決めた
下宿生活第一日目、オフクロが福井からやってきて宝塚に住んでいる
親戚の家族3人と総勢5人で梅田で食事をした・・・・・・
食事の後、オフクロは福井に帰ることになる
国鉄の駅のプラットホームで親戚の人と俺がオフクロを見送った
電車の扉が閉まる瞬間、あの気丈なオフクロがホロホロと泣いた
俺が生まれて初めて見たオフクロの涙だった・・・・・・
それから俺は親戚の人たちと阪急電車に乗り込み西に向った
宝塚に住んでいる親戚の人たちは西宮北口で乗り換え
俺は初めての一人暮らしに心細さを覚えながら月見山まで帰ってきた
下宿の近くの道路から自分の部屋を見上げると俺の隣の部屋の電気が灯っている
どうやらこれから1年間付き合うことになるお隣さんが居るみたいだ
俺は自分の荷物を部屋に置くとすぐに隣の部屋に挨拶に行った・・・・
隣の部屋をノックすると「ハ〜イ・・・」という声と共に出てきたのが
洗濯板のような胸をしたひょろひょろっとした背の高い青年だった・・・
それがシュウちゃんである
そしてそこから先35年以上もの間の俺の交友関係の
原点となったのがまさしくこの瞬間だったのだ・・・・・・
俺は初対面にもかかわらずどういうわけかシュウちゃんの部屋に上がりこみ
彼の歓待を受けることになる・・・・・
シュウちゃんは本当に優しかった
彼は一人暮らしのつもりで一対しか持ってこなかったであろう
ソーサー付きのティーカップにリプトン紅茶のティーパックで紅茶を
淹れてくれた・・・・
そして自分は湯飲み茶碗に2番煎じで薄い紅茶を飲んでいた・・・・
俺は世の中にこんな優しいヤツもいるんだナと思った・・・・・
しばらく話しているうちにシュウちゃんが取り出してきたのが
彼の高校時代の卒業アルバムである・・・・・
ヤツはニコニコして俺にこう問いかけた・・・
「ボクの好きな子、どれかわかるか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(はあ?)
この瞬間にそれから先の人生でいじる側の人間といじられる側の人間の
役回りが決まったと言ってもいいだろう・・・・
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あれから36年が過ぎ、去年の秋にR子姉の還暦祝いでみんなが集まった
2次会のカラオケ屋で誰が一番先に唄うかということになって
シュウちゃんがいの一番に名乗りを上げた「俺が歌う!!」
ところがシュウちゃんが唄の検索の器械でなかなか入力できないでいる
隣に座っている俺がシュウちゃんの手元を覗き込むと
シュウちゃんは歌手の「フクヤマ」で検索をかけたいみたいなんだが
フクヤマのヤをちいさなャで入れるものだから
「フクャマ」となってしまい器械が検索できないのだ・・・・
俺がそれを指摘してやってゲラゲラ笑ったら
「お前はいっつもそうや!なんでそういうタイミングで俺の粗を探す?」
と逆切れする・・・・・・
まッでもヤツの場合は故柳家金五郎と一緒でヤツが怒れば怒るほど
怒られているこっちは可笑しくてしかたがないんだが・・・・
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シュウちゃん、愛すべき人間性に幸多かれ・・・・