俺は自己肯定観念がとても強い・・・・と自分では思っている・・・・

だからネゴサーチを頻繁にするという人間の心理がよくわからない

俺は俺であって俺以外の何物でもないし別に嫌われても一向に構わない

きっと俺を嫌う人間より好いてくれる人間のほうが圧倒的に多いという根拠のない自信があるからだろう

俺は生まれついた時から猛母に俺がどれだけ周囲から望まれてこの世に誕生したのかを

それはそれはしつこく言い聞かせられて育てられた・・・・もはやそれは洗脳に近いものがあった

俺の親父は一人っ子だったが俺の猛母と結婚してからなかなか子供が授からなかった

やっと俺の猛母が俺を妊娠したのは結婚してから8年目だったのだ

俺の爺さんにしてみれば一人息子にやっとできた孫だったのだ

だから俺が誕生した時の逸話には本当に事欠かない

やれ俺の爺さんがどこかから白馬を調達してきて赤ん坊の俺を抱きかかえて町内を一周しただの

あのどケチで有名だった爺さんが「100万円(今の貨幣価値なら1億?10億?)貰うより嬉しい」と呟いただの

それはそれは秦の皇帝の跡継ぎでもさもありなんというような逸話ばかりである

しかし一方で猛母は決して俺のことを褒めるということはしなかった

どんなに学校でいい成績をとって来ても、運動会で表彰されても、自分の部屋をピカピカに掃除しても彼女が俺を褒めることはなかった

「まあまあやな・・・・」が彼女の口癖で「よくやった!」という言葉はついぞ聞いたことがない

そんな猛母がたった一回だけ褒めるに似たようなことを言ったことがある

それは俺がもう50代になってから・・・猛母は80代になっていた

「お前がやってアカンもんは誰がやってもアカンに決まってる・・・・」

その頃、我が家の商売は斜陽も斜陽で売り上げは降下の一途をたどっていた

だから彼女は彼女なりに俺に対して

「辞めたかったらいつでも辞めて構わんぞ」ということを言いたかったに違いない

そして俺は彼女の言いつけ通り彼女が亡くなった翌年に店を閉めた

同業者で今も商売を続けている人たちは「トネさんはいい時期に辞めなすった」と口々に言う

俺はただ自分に与えられた人生に素直に生きているだけである・・・・

感謝の心は忘れていない